概要

SenSWIR(センスワイア)は、化合物半導体のInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)でフォトダイオードを形成し、それを読出し回路のSi(シリコン)とCu-Cu(カッパーカッパー)接続することで、広帯域・高感度を実現したSWIR(Short-Wavelength InfraRed)イメージセンサー技術です。

SWIR光(短波長赤外光)は可視光とは異なる物質を透過したり吸収されたりするため、その性質を使ってさまざまなシーンに活用されています。

SenSWIR

*) SenSWIRおよびそのロゴは、ソニーグループ(株)またはその関連会社の登録商標または商標です。

技術解説

多画素かつ小型化の実現

受光部のフォトダイオードを形成するInGaAs層と、読み出し回路を形成するSi層を接合する際、従来のバンプ接続ではバンプピッチを確保するため、現行の産業機器向けCMOSイメージセンサーと比べて画素を小さくすることができず、微細化が困難でした。本技術では、Cu-Cu接続*1を用いることで画素ピッチを縮小し、微細画素サイズを実現しました。

これにより、高い解像度を持ちながらカメラの小型化が可能となり、検査精度の向上にも貢献します。

*1) 画素チップ(上部)とロジックチップ(下部)を積層する際に、Cu(銅)のパッド同士を接続することで電気的導通を図る技術。画素領域の外周の貫通電極により上下のチップを接続するTSV(シリコン貫通電極)に比べて、設計自由度や生産性の向上、小型化、高性能化などが可能。

可視光までの広帯域撮像

独自のSWIRイメージセンサー技術を活用し、可視光を吸収してしまう表面のInP(インジウム・リン)層*2を薄膜化。可視光をその下のInGaAs層まで透過させ、可視帯域においても高い量子効率を実現しました。

これにより波長が400nmから1700nmまでの広帯域における撮像が可能となり、従来は可視光用とSWIR用で別々に必要だったカメラを1台にまとめることができます。その結果、システムの低コスト化や画像処理負荷の軽減による高速化が可能となり、検査対象範囲の飛躍的な拡大を実現します。

*2) InGaAs層のベースとなる基板。

バンプ接続の場合とCu-Cu接続の場合の比較図
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バンプ接続の場合とCu-Cu接続の場合の比較図

SWIRとは

一般的に、波長が400nm~780nmの光を可視光、780nm~106nmの光を赤外線と呼びます。SWIRの波長帯域は900nm〜2500nmとされ、赤外線の中で最も可視光に近い波長帯です。SenSWIR技術搭載のイメージセンサーは、SWIR光だけでなく、可視光を含む400nm-1700nmの広帯域撮像が可能です。

SWIRの説明の図

活用事例

青果選別

水は1450nm付近の波長の光を吸収する性質を持っているため、その波長帯を利用してSWIRイメージセンサーで撮影すると水を含む部分が黒く映ります。物質に含まれている水分を検出することができるので、青果選別などで活用されています。

打痕や傷を検出し果物を選別する例

青果選別において可視光で撮影した画像

可視光で撮影

青果選別においてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1450 nm)

SWIR環境の撮影ではリンゴの打痕の水分が見て取れます。

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農水産・畜産

充填検査

食品製造工程において、不透明な食品パッケージの場合は、最終的な充填検査が困難です。また、封止をする際にシール部が内容物を噛みこむような場合もあり、これも判別が困難です。

可視域では不透明に見えるパッケージでも、SWIR波長では透過し内容物の観測ができるケースがあります。これを活用することで、内容物を非破壊で確認でき、噛みこみの検知も可能となります。

樹脂容器を透過させ充填状況を検査する例

充填検査において可視光で撮影した画像

可視光で撮影

充填検査においてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1550 nm)

SWIR環境の撮影では不透明容器の中身が確認できます。

関連する分野

食品・医薬品・化粧品製造

異物検査

食品製造において、異物混入の検査は重要です。しかし、類似色の異物が混入した場合、可視光だけではとらえることが難しい場合があります。

SWIR帯域の光の吸収特性、反射特性を利用すれば、可視光だけではとらえることが難しい物質の違いをとらえることができます。この性質を利用し、SWIRイメージセンサーは異物検査等でも活用されています。

食品の異物を判別する例

異物検査において可視光で撮影した画像

可視光で撮影

異物検査においてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1300 nm)

SWIR撮影では、食品(黒豆)と黒い異物の判別が容易です。

クルミの殻を判別するため、複数のSWIR波長で撮影し画像処理をした例

異物検査において一般的なカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

異物検査においてSWIR (1050/1200/1450 nm)で撮影し画像処理
              した画像

SWIR (1050/1200/1450 nm)で撮影し画像処理

クルミの殻と実は、肉眼では見分けづらいですが、SWIR撮影で判別しやすくなります。
右の画像は、SWIRの3つの波長で撮影し、疑似的に色をつけた画像です。このような画像処理を行うことで、クルミの殻と実の区別が容易になります。

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食品・医薬品・化粧品製造

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加工食品の毛髪混入検出

加工食品を製造する現場において、毛髪混入の対策は常に重要視されている課題です。細い髪の毛を目視で速やかに識別することは容易ではありませんが、SWIRイメージセンサーで撮影することで、食品に紛れた毛髪も検出することができます。

コロッケ上の毛髪を検出する例

毛髪混入検出において一般的なカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

毛髪混入検出においてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1450 nm)

コロッケの上にある毛髪をSWIRイメージセンサーで撮影した事例です。SWIR波長で撮影することにより、コロッケの表面にある複数の毛髪を見分けることができます。これは、毛髪がSWIR波長域で強く反射することと、加工食品に含まれる水分が1450nm付近の光を吸収して黒くなるためです。
この特性を利用して、さまざまな加工食品製造過程における毛髪検出にSWIRイメージセンサーを応用することができます。

材料選別

可視域では素材の選別が困難な場合でも、SWIR波長を用いることで、素材を識別し選別することが可能となります。
SWIRイメージセンサーで各素材を撮像することで、リサイクルの現場で重要なプラスチック容器の仕分けや、革、綿などの布の選別にも活用することができます。

綿とポリエステルを判別する検査の例

綿(天然繊維)と、ポリエステル(合成繊維)をSWIRイメージセンサー(複数の波長)で撮影し、繊維素材の種類を判別します。

材料選別(綿・ポリエステル)にてカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

材料選別(綿・ポリエステル)にてSWIRで撮影し作成したマルチスペクトル画像

SWIR撮影の3波長から作成したマルチスペクトル画像
SWIR (1150/1250/1500 nm)

右の画像は、SWIRの3つの波長で撮影し、判別しやすいように疑似的に色を付けたものです。SWIR撮影では、糸の色に関わらず同じ素材であれば均一な反射率を示す画像を得られます。さらに複数のSWIR波長で撮影し画像処理を行うことで、ポリエステルと綿の判別が容易になります。
繊維素材の種類を判別するこの手法は、使用済み衣料品の分別やリサイクルの分野に活用できます。

本革と人工皮革を判別する検査の例

本革と人工皮革をSWIRイメージセンサーで撮影し、素材を判別します。

材料選別(本革・人工皮革)にてカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

材料選別(本革・人工皮革)にてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1250 nm)

上の画像は、本革と人工皮革を並べ、カラーカメラとSWIRイメージセンサーでそれぞれ撮影したものです。
カラーカメラの画像では困難だった素材の判別が、SWIRイメージセンサーにより可能となりました。 本革はSWIR波長の光を強く反射し、画像上で明るく表示されます。一方、人工皮革に多用されるポリウレタンはSWIR光を吸収するため、暗く映ります。このように素材固有のSWIR波長の特性を利用することで、本革と人工皮革の識別が可能となり、革製品の真贋鑑定などへの応用も期待されます。

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リサイクル

樹脂(レジン)製品検査

樹脂成型品の製品検査では、外観から分かる傷や汚れなどだけでなく、内部に隠れている異物や欠陥を見極める必要があります。目視では確認できない内部の不良は製品の品質や寿命に関わり、製品品質の保持に大きく影響します。

樹脂製人工歯の気泡検出

樹脂(レジン)製品検査にてカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

樹脂(レジン)製品検査にてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1450 nm)
(裏面より照明照射)

上の画像は、樹脂製の人工歯を撮影したものです。カラーカメラの撮影では外観は確認できますが、内部の状態を視認することはできません。SWIRイメージセンサーで撮影した画像では、人工歯の内部にある2つの気泡をとらえることができました。これは、人工歯の主成分であるレジンがSWIR波長領域で透過する性質を持っているためです。さらに、気泡だけでなく、毛髪やフィルムの混入など、SWIR波長を活用することでさまざまな異物を検出可能です。
この手法は、人工歯に限らず、ほかの樹脂製品の品質検査にも応用できます。

半導体製造時の位置合わせ

近年、半導体デバイスの微細化にともない、シリコンウェーハの貼り合わせ工程においても、高い精度が求められるようになりました。精度を上げるためには、ウェーハの位置合わせ用のマークを正確に合致させることが重要です。

SWIR波長域の光線はウェーハのSi層(シリコン層)を透過する性質を持っています。SWIRイメージセンサーを活用すれば、そのマークを鮮明に確認することが可能になります。高精細なソニーのSWIRイメージセンサーであれば、エッジの検出精度の向上も期待できます。

シリコンウェーハを透過撮影した例

シリコンウェーハを透過撮影した例(可視光で撮影)

可視光で撮影

シリコンウェーハを透過撮影した例(SWIRで撮影(1550 nm))

SWIRで撮影(1550 nm)

右の写真は、SWIR環境で撮影したもので、シリコンウェーハの奥の解像度チャートを見て取れます。これは、IMX990を用いて約134万画素の高解像度で撮影したもので、小さなマークも精度よく検出できることがわかります。また、約532万画素の解像度をもつIMX992を用いると、さらに高精細な検査・計測が可能です。

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半導体製造

太陽光発電パネル検査

太陽光発電用のパネル品質を評価する検査方法(EL検査:エレクトロルミネセンス検査)にも、SWIRイメージセンサーを活用できます。
EL検査は、太陽光発電パネルを構成する太陽電池モジュールに電圧を加えることで特定の波長帯の光を発光させ、各セルごとの発光状況からパネルの異常を判別する検査です。正常な箇所は近赤外線領域で発光するため、SWIRイメージセンサーでとらえることができます。

太陽光発電パネル検査にてカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影 (蛍光灯環境)

太陽光発電パネル検査にてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影 (暗闇環境)

目視では同じように見えるセルも、SWIRイメージセンサーで撮影すると、正常なセルは白く発光するのに対し、異常を示すセルは黒く映ります。これにより、不良のあるパネルを容易に特定することが可能です。
さらに高感度で高速撮影が可能なため、EL検査においてその性能を最大限に生かすことができます。

温度のモニタリング

イメージセンサーは、物質の温度の差を輝度の差としてとらえることができます。中でも、約250℃以上の物体はSWIR帯域の光を放出しているため、SWIRイメージセンサーを用いることで、250℃以上の高温の温度モニタリングに活用することが可能です。鉄鋼業などでの応用が期待されています。

はんだごて先端の温度をモニタリングする例

はんだごて先端の温度をモニタリングする例(可視光で撮影)

可視光で撮影

はんだごて先端の温度をモニタリングする例(SWIRで撮影(1550 nm))

SWIRで撮影(1550 nm)

SWIR環境で撮影するとはんだごての先端が熱くなっていることだけでなく、温度の違いも確認できます。

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重工業・プラント製造

消防活動

消防活動において、煙が消防士の視界を妨げてしまうことがあります。光の散乱の影響を受けにくいSWIRイメージセンサーは、煙の影響を抑えて撮影できるため、火災現場での状況確認や消火活動に役立つことが期待されます。
また、火は強いSWIR光を放つため、これをSWIRイメージセンサーで撮影することで、炎をクリアに映し出すことが可能です。これにより、森林火災等の火元を特定するのに役立ちます。

関連コンテンツ:消防活動におけるSWIRイメージセンサーの利用

遠方観察

遠方観察では、空気中の微粒子の影響で遠方の対象物がかすみ、うまくカメラで撮影できないことがあります。これに対し、可視光より波長が長いSWIR帯域の光は、空気中の微粒子の影響を受ける度合いが少ないため、遠方の対象物を鮮明にとらえやすいという特性を持っています。

湾岸環境での観察の例

遠方観察にて一般的なカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

遠方観察にてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1550 nm)

一般的に湾岸エリアの観察では特に霧の影響が出やすく、可視域で視認することが困難な場合があります。SWIRイメージセンサーで撮影することで、可視光では霧に隠れて見えなかった遠方の陸地に架かる長い橋の先までクリアにとらえることができています。

遠方観察にて一般的なカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

遠方観察にてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1550 nm)

カラーカメラで撮影した画像では、霧の中にぼんやりとしたシルエットが見えるだけですが、SWIRイメージセンサーで撮影した画像は、洋上船舶と、複数の洋上風力発電がはっきりと見えます。

視界不良下での観察

PM2.5や煙霧などの微粒子が視界の悪化につながり、遠方観察に影響を与えます。

遠方観察にて一般的なカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

遠方観察にてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1600 nm)

カラーカメラで撮影した画像は、全体的に白っぽく、背景に向かうほど対象物が霞んでいますが、SWIRイメージセンサーで撮影した画像では、奥行きのある街並み全体をとらえ、遠方の対象物まで確認できます。

遠方観察にて一般的なカラーカメラで撮影した画像

一般的なカラーカメラで撮影

遠方観察にてSWIRで撮影した画像

SWIRで撮影(1600 nm)

カラーカメラで撮影した画像では、建物の奥に鉄塔がうっすらと映っているだけですが、SWIRイメージセンサーで撮影した画像では、鉄塔の奥に広がる山並みと、その山肌まではっきりととらえ、鉄塔の細部まで確認できます。

関連する分野

遠方・広域観察

農地の観察

現在、農業の現場では、上空からカメラで農地を観察する取り組みが進んでいます。作物の育成状況を把握できるようになったことで、データにもとづいた限定的な追肥や収量予測をすることが可能になってきました。

しかし、色情報だけで育成状況を判断するのは容易ではありません。SWIRイメージセンサーを用いれば水分の有無を可視化できるので、水分量による育成状況や分布を可視化でき、判断の精度を高めることができます。

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農水産・畜産

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