企業の枠を越えて水資源を考える――熊本で育む流域協働
2026.08.19
水は、多様な産業を支える経営基盤であると同時に、地域の人々の暮らしを支える大切な共有資源です。
7月15日に熊本県で開催された 「第2回グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026」において、ソニーセミコンダクタソリューションズグループ(以下、SSSグループ)は、水資源の保全をテーマとしたセッションに登壇しました。本記事では、水資源を次世代へつないでいくために、流域に関わる多様なステークホルダーが協働する必要性や、その具体的な取り組みをご紹介します。
難波 圭氏
アライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ (AWS)
セクターチーム
セクターコーディネーター
小林 俊介氏
世界自然保護基金ジャパン
自然保護室
淡水グループ長
瀬田 玄通氏
サントリーホールディングス
サステナビリティ経営推進本部
[環境課題]部長 気候変動・生物多様性統括
中村 禎克
ソニーセミコンダクタソリューションズ
経営戦略部門
副部門長
吉田 広人氏
八千代エンジニヤリング
サステナビリティサービス部
副部長
水資源の未来を考えるセッションに、企業・専門家が登壇
本セッションでは、「ウォーター・スチュワードシップの実践:流域協働が切り拓くネイチャーポジティブな未来」をテーマに、企業や専門家がそれぞれの立場から、流域全体で水資源を守るための取り組みや課題について議論が交わされました。
登壇したのは、サントリーホールディングス、ソニーセミコンダクタソリューションズ、地圏環境テクノロジー、八千代エンジニヤリング。モデレーターはアライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ(AWS)と世界自然保護基金ジャパンが務めました。
近年は、気候変動や都市化に加え、産業分野における水需要の高まりなど、水を取り巻く環境が大きく変化しています。豊かな地下水に恵まれた熊本においても、水資源を将来世代に引き継いでいくために、流域全体で水循環を支える取り組みがますます重要になっています。
企業だけでは守りきれない水資源
持続可能な水利用管理を推進する団体であるAWSの難波氏は、「水は企業だけでなく、地域社会や自然環境とも共有する資源であり、流域全体で課題をとらえる必要がある」と説明しました。
水を保全するためには、工場での節水など企業の敷地内における「点」の取り組みでは不十分であり、流域に関わる多様なステークホルダーと連携し、企業拠点の枠を超えた「面」のアプローチが鍵となります。この考え方は「ウォーター・スチュワードシップ」と呼ばれ、水資源の健全性を高めていくために極めて重要です。
こうした考えを体現する企業として、20年以上にわたり水源涵養活動「サントリー 天然水の森」を継続しているサントリーホールディングスが登壇しました。同社の瀬田氏は、これまでの森林整備による水源涵養機能の向上と生物多様性の保全・再生への取り組みに加え、「企業単独でできることには限界がある」との考えから、森林だけでなく都市部や農地も含めた流域全体で地下水を育む仕組みづくりとして、産学金5組織による「熊本ウォーターポジティブデザインセンター」の取り組みを紹介しました。
16都府県27カ所、12,000haを超える規模まで広がっている「サントリー 天然水の森」
地域との信頼関係が支える地下水涵養
次にSSSの中村は、半導体は数百に及ぶ製造工程を経て作られ、その過程ではウェーハを清浄な状態に保つために多くの水が使用されることに言及しました。
半導体製造において、水は品質と安定生産を支えるために必要不可欠な経営基盤です。一方で、地域にとっても大切な共有資源であることを深く認識し、SSSグループでは、工場内での節水や循環利用に加え、2003年度から農地湛水による地下水涵養を継続しています。2025年度には約305万立方メートル(東京ドーム約2.5杯分)の地下水涵養を実施しました。
中村は、「地域社会から問われているのは、水の使用量だけではなく、共有資源である地下水に対する企業としての向き合い方」と説明しました。
地下水涵養は、農家、JA、土地改良区、行政、NPOなど、多くの関係者からの協力によって成り立っており、20年以上にわたり地域との対話を重ねて築いてきた信頼関係が、継続的な取り組みにつながっています。中村は、「熊本の地で、地域の皆さまとともに育んできた水資源保全の取り組みが、半導体事業の持続可能性を支える重要な経営基盤になっている」と述べ、地域との信頼関係が長期的な事業活動を支えていることを強調しました。
地域の皆さまの協力のもとで成り立っている地下水涵養
科学と対話が流域協働を支える
こうした流域協働を支える上で、「多様なステークホルダーと水に関する課題を共有するためには、科学的根拠に基づいたデータが重要な役割を果たす」と地圏環境テクノロジーの田原氏は語り、地表水と地下水の流れを可視化する技術を紹介。科学的データが、企業や自治体、地域住民などが同じ認識のもとで議論するための「共通言語」となり、合意形成を進めやすくなると説明しました。
また、八千代エンジニヤリングの吉田氏は、建設コンサルタントとして企業と行政をつないできた経験から、流域での取り組みには地域の声を反映することが重要だと強調。地域の人々が感じている課題を起点に、科学的なデータを踏まえながら解決策をともに考えていくことが、持続可能な水資源管理につながると述べました。
地圏環境テクノロジーが提供する、地表水と地下水の流れを可視化する技術
熊本から広がる流域協働
セッションの最後に、モデレーターを務めた世界自然保護基金ジャパンの小林氏は、「水資源の保全は一企業だけで実現できるものではなく、流域全体で多様なステークホルダーが協働することが重要」と強調しました。
SSSグループはこれからも、多様なステークホルダーとの対話を重ねながら、地域とともに熊本の水資源を未来へつなぎ、ネイチャーポジティブの実践を継続していきます。
セッションの様子