中高生と企業の若手イノベーターが本音で語り合う。
ディスカッションで見えてきた「私たちの未来」
2025.05.27
2025年3月26日、一般財団法人経済広報センターが渋谷教育学園渋谷中学高等学校と協力して実施する「大手企業内の若手イノベーターと中高生が未来を語るプロジェクト」を、東京都渋谷区の同校にて開催しました。
進路やキャリアの分岐点にいる中高生15名と、大手企業で社会的課題の解決に積極的に取り組むイノベーター3名が集ったとき、そこではどのようなディスカッションが行われ、何が生まれたのでしょうか?
本記事ではディスカッションの当日の様子とともに、本プロジェクトの立役者である一般社団法人電子情報技術産業協会(以下、JEITA)の吉田俊氏と、若手イノベーターとして参加したソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)の水町夏子に、本プロジェクトの意義や昨今産業が一体となって取り組む次世代人材に向けた情報発信について聞きました。
中高生が若手イノベーターと語り合った。
「企業で働くって、そもそもどういうこと?」
「大手企業内の若手イノベーターと中高生が未来を語るプロジェクト」は、事業を通じて社会課題の解決に取り組む実例の紹介や若手イノベーターとのディスカッションを通じて、中高生に将来のキャリアや夢、そしてその実現方法について、考える機会を提供することを目的に開催されました。
この日登壇した若手イノベーターは、清水建設株式会社の狩野俊太郎氏、日本郵船株式会社の寿賀大輔氏、SSSの水町夏子の3名。
(左から寿賀 大輔氏、水町 夏子、狩野 俊太郎氏)
まずは3人の若手イノベーターが自己紹介を行い、これまでに携わってきた事業や仕事内容について簡潔に説明。その後、渋谷教育学園渋谷中学高等学校の生徒たちが待つテーブルに混じり、「未来を語るディスカッション」がスタートしました。
生徒たちは、「今の仕事を通じて、社会で実現したいことは何ですか?」、「なぜ就職先に今の企業を選んだのですか?」、「自分にはまだ明確な目標がないのですが、今後どうすればいいと思いますか?」など、将来の進路やキャリアについて抱えている、想いや疑問を積極的に投げかけます。それに対し、若手イノベーターたちは自らの経験を踏まえて真剣に回答。生徒と社会人がお互いにじっくり向き合うインタラクティブな対話が、約1時間にわたり繰り広げられていきました。
ディスカッションを終えると、生徒たちがディスカッションを通じて感じたことや学びをまとめるワークの時間です。「将来解決したい社会課題や、それを達成するための進路」について、話した内容をもとにそれぞれが思いを巡らせて、ワークシートに具体的に書き出していきます。記入を終えたあとは、テーブルごとに若手イノベーターからの助言を受けながら話し合い、最後は代表者が全体の場で発表していきました。
生徒たちの発表を見ていると、「宇宙産業を起業し、日本を豊かにしたい。そのために今、米国の大学に進学する道を模索中」といった具体的な将来の夢から、「具体的な目標はまだ見つかっていないが、多様な価値観が認められ、すべての人が自分自身に自信を持てる世界を作りたい」という社会全体を見据えたものまでさまざま。普段なかなか接することのない「世界と向き合う大手企業の中で、新たなビジネスや変革に挑む大人たち」の姿から新たな発見と刺激を得て、生き生きと語る様子からは、自分たちの未来を自分たちでつくっていこう、という熱意と希望がにじみ出ていました。
――「中高生と未来を語るプロジェクト」の意義
次世代を尊重しながら、未来を描くための材料を提供
講座の後、SSSで広報を担当する水町夏子が、本プロジェクトの発起人の1人であるJEITAブランドコミュニケーション部長の吉田俊氏と対談。プロジェクトの振り返りや主催した意義、改めて「企業は今、次世代のために何をするべきか?」というテーマについて語り合いました。
―― このプロジェクトを開始した経緯を教えてください。
吉田氏
もともとのきっかけは、「今の若い世代に、大手企業の魅力が伝わっていないのではないか?」という素朴な疑問でした。スタートアップや起業が魅力的に映る一方で、大手企業は「安定を求めすぎて挑戦しない」というイメージが、現在の若者たちの中にあるのではないかと。
しかし実際には、経団連に加盟しているような大手企業も、社会を支え、成長を続けるために常に新しい挑戦を行っており、若い世代を中心に積極的に新しい事業を推進している人々が多いのです。こうした事実を知ってもらいたいというのが、出発点でした。
加えて、発信先として、大学生ではなくもっと若い世代をターゲットにしたプロジェクトを立ち上げたかったんです。単なる「就職案内」や「会社説明」ではなく、ロールモデルとなる大人たちが、どんな考えを持って日々仕事に取り組んでいるのかを聞ける、そんな場をつくろう。そう思って、一方向的な講座ではなく、若手イノベーターと生徒の皆さんがディスカッションしながら、対等に意見を交わせる場を作ろうと考えました。
水町
今回、吉田さんと経済広報センターからお声掛けいただいて、すぐに参加を決めました。理由はいくつかありますが、私も、企業広報という仕事を通じて、会社の中で挑戦している社員の姿を世の中に発信するにはどうしたらよいのか、日々模索しています。今は動画やSNSなどのさまざまなチャンネルがありますが、特に若い世代の“マス”に届けられているかというと、やはり課題があります。そこで、今回のようにリアルに集まって、中高生とざっくばらんに仕事のことを話す場って、生徒たちの興味を広げたり、記憶に残してもらえる貴重な機会になるのではないかと考えました。
吉田氏
講座後のアンケートでも、「大手企業は上司から指示が常にあり、それをこなす仕事をしていると思っていた。そうではなく、自分からアクションを起して、新事業を作ることもできると聞いて驚いた」「将来に対する考えを素直に話して、経験豊富な大人の皆さんに支持していただけて、自信になった」といったコメントがありました。生徒の皆さんは「世の中こうなったらよいのに」「将来こういうことをしたい」という強い思いを持っていて、それを実現するための方法を模索しているんですよね。「将来やりたいと思っていたことを、企業の中で実現している人もいる」と伝えられて、少なからず希望を与えられたのではないかと感じています。
水町
おっしゃるように、「いまやりたい事があまりない」「大学で理系と文系のどちらに進むか迷っているが、どうやって決めたか」と、迷いながらも前進しようとしていますよね。あと、生徒の皆さんのアンテナの高さには、驚きました。実は「ソニー、半導体、広報。どれも聞いたことがあるくらいで、中高生には興味を持ってもらえないだろうな・・・」と自信がなかったんですが、「広報とマーケティングって何が違うんですか」とか、具体的な企業名を挙げながら「海外企業と比べてソニーの強みは何ですか」といった鋭い質問が次々と出てきて、社会人生活で得た知識と経験をもとに、頭をフル回転させました(笑)。こんなにも意欲的に世の中のニュースをキャッチしている次世代の存在があるのだから、企業や社会人が門戸を広げて向き合えば、私たちも新しい気づきを得られるんじゃないでしょうか。
「何をしている会社か分からない」時代に、
toB企業の魅力をどう伝えるか?
―― エレクトロニクス産業・半導体産業の認知度や人材育成にどのような課題感を持っていますか?
吉田氏
採用活動や人材育成における課題の背景の一つが、大手企業と一般の人々の接点が減少したことにあると感じています。例えば、日本の大手電機メーカー各社が携帯電話やテレビなどを競って作っていた時代には、それらの企業の製品が日常生活に溶け込んでおり、自然に企業のことを知ることができました。しかし今は、B2C製品に限らず、IoTなどの技術が融合する時代。結果的に、大手企業は優れたテクノロジーや人材を持っているにもかかわらず、エンドユーザーに認知してもらうことが難しくなってきている。「会社名は知っているが、何をしている会社なのかは知らない」という印象を持たれやすく、「そこで働く自分」のイメージが湧きにくくなっています。
水町
私もSSSの広報活動にかかわる中で、同じような課題を感じています。「半導体」はあらゆる製品やサービスに欠かせないキーデバイスですが、日常生活で目にすることがありません。言葉は知っていても、どこでどのように役立っているのかがわかりづらいことが、人材のすそ野を広げるうえでハードルになっていると思います。さらに、日本では、かつての半導体ブームの印象が未だに残っている課題もありますよね。
SSSは今も世界トップクラスの技術を生み出し続けていますし、それを社会に実装して、新たなビジネスにつなげる取り組みもしています。半導体のモノづくりの側面に加えて、半導体を活用した製品やサービスを生み出すところまで、仕事のフィールドやキャリアの選択肢が広がっていることを、より多くの人に伝えたいと考えています。
吉田氏
関連する話で、2024年10月に開催されたテクノロジー総合展「CEATEC 2024」(主催:JEITA)のJEITA半導体部会ブースでは、「半導体産業人生ゲーム」という企画を展開しました。ここ数年で半導体そのものに注目が集まったこともあり、業界全体としては関心を持っていただけるようになった一方、そこで働くイメージや、最終的にはどのような形で社会課題の解決につながっているのかは伝わりきっていない。だからといって、展示会をしても、単純に技術や企業の紹介をパネル展示では認知されにくい。
そこでタカラトミーさんに協力をお願いして、半導体業界に就職した人生を擬似体験できる、等身大サイズの人生ゲームを作ってもらいました。ゲーム中、就職する企業をルーレットで決めるコマもあるのですが、「SSSに就職する」カードも作らせていただきました(笑)。来場者からも好評で、ゲームをプレイした方には「半導体業界に進むと何の職種でどんなキャリアを築けるのか?」ということを、具体的にイメージしていただけたように思います。
(JEITA半導体フォーラム2024で、実際に展示された等身大サイズの「半導体産業人生ゲーム」)
水町
CEATEC 2024では、ソニーグループも「Hello, Sensing World!」をテーマに、半導体にフィーチャーした展示をしていました。工場の生産ラインや車の自動運転、ゲームやARなどのデモ体験を入口に、そこで使われているユニークな半導体やその応用範囲の広さを「面白い!」と感じてもらうための企画でした。学生もたくさん来場していて、「イメージセンサーって初めて聞いた」とか「こんなこともできるんですね」といった声もありましたが、半導体をはじめ、テクノロジーって社会に浸透すればするほど、その存在を意識してもらうきっかけづくりが必要になるものなんだなと考えさせられました。
また、昨年は「SEMICON TALK」という、半導体企業が合同開催する人材イベントが開催されました。対象は、これから専門分野を決める大学1-2年生です。初回の神戸大学では、キオクシア、東芝デバイス&ストレージ、三菱電機、ルネサス、ローム、そしてSSSの6つの半導体メーカーが参加し、最前線で活躍する社員や採用担当が、パネルディスカッションや企業ブースで、半導体に仕事で携わることの面白さややりがい、苦労などについて、学生からの質問にじっくり時間をかけて答えていました。人材獲得においては競合ともいえる同業者が一同に集まることで、一口に「半導体」といってもさまざまな企業やキャリアパスがあるという可能性を感じてもらえたのではないでしょうか。そうやって、企業が協力して、学生の目線に立った発信をする機会が、今後も広がればいいなと思います。
(半導体企業による合同人材イベント 「SEMICON TALK」 。2024年12月に神戸大を皮切りに今後他の大学にも展開される予定)
――生徒たちに“想い”を育むきっかけを。
企業が発信していくことで生まれる好循環
吉田氏
渋谷教育学園渋谷中学高等学校でのイベントも3回目を数えました。本プロジェクトは今後も取り組みを続けていきたいですし、全国からお声がけをいただけたら、大変うれしく思います。まだ自分のやりたいことがわかっていない生徒や、エネルギーの持って行き方がわからない生徒に対して企業が「道しるべ」になる。そして、「なりたい自分」へ向かって走り出す手助けをする。これが社会全体に良い影響を与えると信じています。
水町
講座の中でも伝えたのですが、それぞれの企業が、社会をより良くしていきたいという大きな目標を持っていて、そのために常に新しいビジネスチャンス、アイデアや価値観を求めています。なので、企業の活動や業界の動き、そこで働く人たちの姿の発信を通じて、次世代の意見を企業が社会に取り入れていけるようなムーブメントの一助となりたいと思っています。SSS一社に閉じることなく、さまざまな企業と一緒になって、「あなたの好きは、世の中の役に立つ仕事になる」「これからの社会はもっともっと面白くなる」と、励みになるようなきっかけを作りたいですね。
吉田氏
「未来に対して燃えていいんだよ!」と、そう伝えていきたいですね。