INDUSTRIAL
エッジAIセンシングプラットフォーム
世界No.1の技術を掛け合わせて生まれる革新的な顔認証ソリューション特別企画:ソニーセミコンダクタソリューションズ×NECスペシャル対談
2025.01.09
ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)とNECは、両社が有する最先端技術を活用した顔認証ソリューションを共同開発する戦略的協業をスタートさせると発表しました。この顔認証ソリューションは幅広いシーンで“簡単・低コスト”に導入でき、“安全・安心”を実現できるものとして、広く社会に貢献することをめざしています。 そこで、この協業を担当するSSS システムソリューション事業部長の柳沢英太と、NEC Corporate SVP 製造ソリューション事業部門長の清水一寿氏に、協業の経緯や内容、提供できる価値などについて聞きました。
ソニーとNECが協業した理由とは?
――初めに、今回の協業の経緯についてお教えください。
清水
両社は以前から技術者同士の交流などいろいろな取り組みを行っていましたが、2022年に協業の検討が本格化し、その年の12月に物流DX領域の実証実験を先行的に始めました。その後、それだけに閉じることなくそれぞれの持つ最先端技術を組み合わせることで、単独では出せない新たな価値を生み出していこうということで共創プロジェクトが発足しました。 私たちNECは顔認証を中心とする生体認証、ソニーはイメージセンサーを軸とするエッジAIセンシング技術を搭載したプラットフォーム「AITRIOS™(アイトリオス)」という先進技術を有しており、これらを掛け合わせることで社会により大きな価値を生み出せると考えました。
NEC Corporate SVP 製造ソリューション事業部門長 清水一寿氏
柳沢
両社によるミーティングの最後に、当社社長の清水照士が「NECはこれだけの生体認証・画像処理技術を持ち、ソニーはイメージセンサー領域で革新的なテクノロジーを有している。今までこの領域で協業してこなかったのが不思議でもある」とコメントしたのが印象的でしたね。 両社のトップの考えが合致したことが大きな推進力になったと思います。
ソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部 事業部長 柳沢英太
――この協業は、社会にどんな価値や意義をもたらすと考えていますか?
清水
私たちは、顔認証は物理的なカギやパスワードといったものよりも、より安全で強力な認証基盤であると捉えています。しかしながら、場所や光環境の制約によりなかなか実装できないシーンのほか、設置や調整に多大な手間やコストを要するケースが多くありました。今回の協業でこうした制約をクリアでき、これまで導入が難しかった場所でも利便性と安全性を両立した個人認証を実現することができます。これにより、ユーザー体験を大きく向上させ、活用シーンを広げることができるでしょう。
世界No.1の技術同士の組み合わせ
――では、その両社のコア技術について教えてください。
清水
NECは顔をはじめ、虹彩や指紋など主要な生体認証で世界トップクラスの技術を持っていますが、中でも顔認証技術は米国国立標準技術研究所(NIST)のベンチマークテストで複数回世界No.1の評価※を受けており、業界を常にリードしています。 顔認証は、正面を見て何もつけていない状態で認証するだけでは、世の中ではなかなか使えませんが、NECの顔認証は顔の向きや経年変化・表情変化にも強く、メガネやマスクといったものをつけていても認証することが可能です。 これまで世界70以上の国と地域に導入した実績も強みです。空港の国際線をはじめ様々な場所での入退管理に顔認証を導入しており、今年4月に開催される大阪・関西万博でも店舗決済と入場管理等で活用予定です。
※米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストでこれまでにNo.1を複数回獲得 ※NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません
柳沢
ソニーのイメージセンサーは元々民生用ビデオカメラ向けに開発され、その後デジタルカメラやセキュリティカメラ、携帯電話向けと進展し、現在その搭載先はスマートフォンや車載、産業機器向けなどに広がっており、業界首位の金額シェアを有しています。 このようにイメージセンサー技術によって新たな用途を開拓し、産業から求められる期待に応えてきたのですが、イメージセンサーをもっと使いやすいものにしていかなければならないと考えて開発したのが、エッジデバイスやAI開発ツールなどをワンストップで提供するプラットフォーム「AITRIOS」です。 本来イメージセンサーというのは、データ量の膨大さや出力情報が特殊であることから扱いが難しい半導体ですが、パートナー企業は「AITRIOS」を利用することで、現場におけるカメラ毎の設定調整や運用の手間を大幅に軽減し、導入コストを低減させることができます。
共同開発中のAIカメラ
逆光などの環境下でも高精度の顔認証が可能に
――それらの技術を掛け合わせた本ソリューションは、従来に比べてどのような点が優れているのでしょうか。
清水
これまで、空港やマンションなどいろいろな場所に導入してきましたが、逆光などの環境下で顔認証を実現するのに非常に苦労していました。1か所ずつ明るさを考慮してカメラを設置したり、個別に設定調整をしたりするなど一つひとつハンドメイドで行っていて、大きな手間やコストがかかっていたのです。 本ソリューションで使用するAIカメラは、ソニーのエッジAIセンシング技術とNECの光環境の変化に強いAIモデルとの連携で、シーンに応じて画質をリアルタイムに最適化することができます。このため、逆光などの環境下でも設置工事や設定調整は最小限に抑えながら、高精度の顔認証が可能になります。 さらに、顔の画像をクラウドなどカメラの外に出さず、特徴量のみを抽出しクラウドに送信し、顔写真などによる「なりすまし対策」機能も搭載しているので、高度なセキュリティが求められるシーンにも導入できます。 このソリューションは、単に顔認証ができる会社とイメージセンサー技術を持つ会社が、お互いの技術を持ち寄ったらできるというものではなく、それぞれの技術領域を知り尽くしたソニーとNECだからできたことだと思います。お互いにここまでやれば認証できる、このような調整によってセンシングできるというような、かなり深い議論を重ねて、試行錯誤を繰り返しながら谷を越えたという感じがしています。
柳沢
私は製品をよく料理に例えて話すのですが、NECがカレー料理人であるとしたならば、私たちは複数のユニークなイメージセンサーを有する食材の提供者です。NECがこれまで人参、ジャガイモ、鶏肉など、限られた食材の中で「顔認証」というカレーを作っていたところに、私たちは「AITRIOS」により、ご要望に合わせて食材のバリエーションを増やしたり、高い鮮度でご提供することができます。つまり、ユースケースによって最適なイメージセンサーをご提案し、高品質な結果を出力することができます。これにより、食材を受け取って調理する側のNECは、調理方法の可能性が広がり、カレーの味をより進化させるように、顔認証ソリューションの性能向上を図ることができます。
清水
その例えは分かりやすいですね。さらに付け加えると、料理する人と食材を提供する人が一緒にやっているのですから、これはもう美味しいものができるに決まっています(笑)
“クライアントゼロ”で実証
――このソリューションは、どういった業界やシーンでの活用が期待されますか? また、今後の導入拡大に向けてのアプローチについて教えてください。
清水
高度なセキュリティが求められる金融業界、例えばATMが考えられます。そして、明るさが時間によって変わる屋外のイベント会場や、倉庫の様な光環境が変化する場所での活用も考えられます。 また、顔認証だけではなくモノの認証に応用することで、倉庫の棚に並んでいる商品などの検品作業の省人化にも活用可能でしょう。物流現場は人手不足が顕著ですから、こうした作業の効率化の貢献度は大きいのではないでしょうか。 NECでは、ソリューションを外販する上で、自社の課題解決に用いて磨き上げる“クライアントゼロ ”という考え方を実践しています。顔認証についても、2023年4月から「NEC丸ごとデジタルIDプロジェクト 」という取り組みをスタートし、2024年度は社員2万名規模へ拡大しています。これは、顔認証を活用したデジタルIDで入退場をはじめ、食堂や売店での購買決済、ロッカーの開錠などのあらゆるサービスを顔認証で利用できるというもの。社内では“手ぶら”で過ごせるというわけです。今後は本ソリューションをこの取り組みに活用して、主要事業所から国内のグループ会社まで展開しながら、サービスの新たなアイディアにつながることを期待しています。
柳沢
当社も、NECの“クライアントゼロ”に賛同しています。当社の清水社長も常々「自社で使われていない技術は、お客様に対して売り込んでも説得力に欠ける」と話しています。そこで、SSSグループの製造事業会社であるソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの半導体工場に導入し、実証実験を進めているところです。 「AITRIOS」は物流や工場・小売業などのお客様が多く、そういったお客様にこのソリューションも活用頂きたいと思っています。さらにソニーグループとしてはエンタテインメントなどB to C領域にも強みを持っており、そこでの顔認証によるデジタルIDとの相性もいいのではないかと社内で議論しているところです。 また、今後「AITRIOS」として展開しているマーケットプレイスでも今回両社で手掛ける顔認証ソリューションを提供していく計画です。より多くのパートナーやエンドユーザーの方々も簡単に活用できるようなサービスの在り方を追求していきたいと考えています。
協業を通して両社が見据える未来
――今後の社会実装に向けた思いや展望についてお話しください。
柳沢
元々当社はカメラメーカーではなく、イメージセンサーという半導体のベンダーです。最終製品に組み込まれることで初めて、事業を拡大することが可能となります。したがって、組み込んでいただくお客様のご理解とご賛同を得ることが不可欠であり、そのためにも両社の“クライアントゼロ”で実証を重ねていくことが大事だと考えています。
清水
“顔認証×AIカメラ”の今後の可能性として、立ち止まりが不要な“ウォークスルー認証”への対応や柳沢さんのおっしゃったハードウェアへの組み込みなど多くのユースケースが考えられます。技術はどんどん進歩しているので、両社の関係性を継続的に強化し、商品価値を高めながら、近い将来グローバルでのビジネスにも拡げていきたいと思います。 また、顔認証以外にもNECのソリューションとAIカメラの連携も考えられます。例えば、「ULTRAFIX 」という輸配送システムではトラックバースの予約サービスを提供していますが、AIカメラを組み合わせることで車両のナンバープレート情報を読み取り、自動的にバースの入出庫管理を行うことを検討しています。 今回の発表はスタートに過ぎず、今後も両社の技術やマーケットを掛け合わせて新たな価値を提供し続けることで、より多くの社会課題の解決に繋げ、便利で革新的な未来の実現をめざしていきます。