INDUSTRIAL

イメージセンサー

感動を見たままに残したい。モバイル用イメージセンサーの飽くなき挑戦

2023.01.23

レンズから入ってきた光を電気信号に変換する半導体である「イメージセンサー」。目下、この市場は拡大を続けています。ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)の調べでは、2022年度から30年度にかけてグローバルでの年平均成長率(CAGR)は約10%に。SSSは、その中で世界トップシェアを獲得*しています。

SSSの市場での金額ベースでのシェアは21年度は43%。25年度には60%に必達するという目標を掲げています。

この事業成長をけん引するのが、スマートフォン端末などに搭載されるモバイル用イメージセンサーです。ここには長年SSSが培った知見やノウハウに加えて、スマホ時代の新たな技術がふんだんに投入されています。これらが世界中のエンドユーザーの日常にさまざまな“感動体験”を提供しているのです。

SSSのモバイル用イメージセンサーの強みとは何か。先端画素を搭載したイメージセンサー開発に従事するモバイルシステム事業部の中田征志と、事業マネジメントの役割を担う鈴木文明に話を聞きました。

*)ソニー調べ
参照:https://www.sony-semicon.com/ja/company/group/index.html

中田 征志

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
モバイルシステム事業部

プロフィール:2006年ソニー株式会社入社。イメージセンサーの集光構造開発を担当した後、信号処理を含めた画質設計に従事。その後、モバイル用に初めて像面位相技術を導入。2015年にはIMX318のプロジェクトリーダーを務める。2017年にソニーインタラクティブエンタテインメントに異動し、ソニーミュージックと協働で先端カメラを用いた実写VRコンテンツ制作に携わる。2019年から現事業部に戻り、モバイル用イメージセンサー開発を推進。2021年に、商品開発から量産化までを担う部署の統括課長となり、現在に至る。

鈴木 文明

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
モバイルシステム事業部

プロフィール:2005年ソニー株式会社入社。α・Handycam・Cyber-Shot向けカメラプラットフォーム開発PMOや本部長スタッフを経て、2010年から新規事業企画、クラウドサービス・アプリケーション企画を担当。2014年に半導体営業に異動し経験を積んだ後、2016年にサンノゼ赴任。北米でのMMICビジネスの利益率大幅向上やアナログLSIの新規ビジネス獲得に貢献し、2019年に現事業部に帰任。翌年新設されたビジネス開発の統括課長として、ブランディングやアライアンス・契約サポートを手掛ける。

50年以上に及ぶ開発で培ったモバイル用イメージセンサーの技術力と特長とは

CCD、そしてCMOSへ——。ソニーグループによるイメージセンサーの開発は、世界におけるイメージセンサーの進化の歴史そのものといっても過言ではありません。

「イメージセンサーから画像を出力させるには、光を受光する画素、それをデジタル値に変換するための回路、そして画質の仕上げを行う信号処理のパイプラインを通る必要があります。それぞれの過程においてSSSは高い技術力を誇ります」と中田は胸を張ります。

具体的にはどのような点で優れているのでしょうか。

「2009年に世界初の裏面照射型CMOSイメージセンサーを生み出した後も、高SNR(Signal to Noise Ratio:信号対ノイズ比)、広いダイナミックレンジ、高速オートフォーカス(AF)を実現する画素技術で業界リードしています。また、低ノイズで高速な読み出しを実現できる回路技術や、高品位な出力が可能な信号処理技術なども特徴に挙げられます」(中田)

CCDの研究開発に着手してから、実に50年以上に及ぶイメージセンサーとの関わりの中で蓄積した技術をモバイル用にも応用しているのが、ソニーグループの強さの源泉と言えるでしょう。

夜景や星空を美しく撮影するための「大判化」

では、SSSのモバイル用イメージセンサー技術はどのように人々の役に立っているのでしょうか。

近年、老若男女問わずスマートフォンカメラに対する最も大きな要望は、暗所でも美しく撮影したいという点です。

写真を撮るメカニズムと、イメージセンサーの役割について、次のように中田は解説します。

「きれいな写真や動画を撮るには、センサーにより多くの光を取り込み、低ノイズで情報を出力することが求められます。ただし、低ノイズでもフォーカスが合っていなかったり、手ブレしていたりすると、失敗した動画像になってしまいます。それを防ぐべく、フォーカスを合わせるための情報をセンサーから出力したり、ブレや歪みのないように高速でシャッターを切ったりと、イメージセンサーに求められる要件は多岐にわたります」

エンドユーザーのニーズを叶えるためにSSSが注力するのが、スマートフォンカメラの「大判化」です。大判化とは、イメージセンサーの面積を大きくすること。

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「たとえば、夜景シーンの撮影は手ブレに注意しなければならないし、星空を撮ろうとしても小さな光学サイズでは一等星がギリギリです。センサーの大判化によって受光面積が大きくなれば、その分、シャッター時間を短くできるため手ブレしにくくなります。また、同じシャッター時間の場合は、より多くの光を取り込めるため、暗い被写体も撮影可能なのです」

大判化は暗所だけではなく、明るい場所の撮影でもメリットがあります。それは白飛びの防止です。

「光電変換で発生した電子をためるフォトダイオードを大きくできるため、明るいシーンで白飛びしてしまうことを防げます。つまり、大判化は暗所を正確にとらえて、ダイナミックレンジが求められる明所も白飛びせず、正確に写真に残せるのです」(中田)

大判化が進む背景には、別の理由もあります。長らくスマートフォンカメラは、複数のカメラを搭載する「多眼化」が主流でしたが、それも頭打ち状態になっています。

多眼と両輪になる進化が大判化であり、エンドユーザーとメーカー双方の課題を解決できる技術なのです。

スマートフォンカメラのさらなる進化を実現させる新技術

今後も大判化のトレンドが続くことは予想されるものの、課題も出ています。モバイルデバイスの面積は限られており、スマートフォンカメラ部分の出っ張りによって生じている厚みも、ユーザーの利便性などを考慮すると、これ以上厚くするわけにはいきません。では、どうすればいいのでしょうか。

そこで生きてくるのが、SSSが新たに開発した独自技術です。一つが、2021年12月に発表した「2-Layer Pixel(2層トランジスタ画素)」です。

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「これまでのイメージセンサーは、フォトダイオードと、その画素を駆動させるトランジスタを同じシリコンに形成していました。つまり、これら2つで面積の取り合いをしていたわけですが、2-Layer Pixelでは、フォトダイオードとトランジスタを別々のシリコンで作ることで、より大きなフォトダイオードを実現し、ダイナミックレンジを広げられるようになりました。加えて、アンプトランジスタも拡大するため、ノイズを大幅に低減できます」(中田)

この技術により、たとえば逆光などの明暗差が大きいシーンでも白飛びや黒つぶれがない上に、室内や夜景などの暗いシーンでもノイズの少ない高画質な撮影が可能となります。

もう一つが「全画素オートフォーカス」です。暗所での撮影を改善する上で、SNRと同様に重要なポイントは、フォーカスが被写体にしっかり合わせられることです。従来はイメージセンサーのわずかな領域をフォーカス情報取得画素に割り当てる手法を取っていて、この専用画素が取得した情報を基に、後段のカメラシステム側でフォーカスを合わせていました。

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しかし、フォーカス情報の精度はこの専用画素が占める面積に依存するため、暗所ではノイズの影響によって十分な性能を発揮できませんでした。それを解決するのが、全画素オートフォーカスを実現する「Dual PD」方式と、「Octa PD」方式です。

Dual PDは、左右2つのPD(フォトダイオード)をペアにして、1つの画素にする技術で、イメージセンサー全体に配置できます。

「これによって100%の面積でフォーカス情報を得られるため、暗所でもフォーカスが合いやすくなります。さらに、人間の瞳や、遠くにある小さな被写体であっても、狙った場所にフォーカスを合わせることができます」と中田は強調します。

Octa PDは、Dual PDの画素を同色2×2単位に並べたもの。暗所において2×2画素を1つの画素として読み出すことで、実質4倍の大きさの画素と同じSNRを得ることができます。Octa PDの特徴は、高感度、HDR(ハイダイナミックレンジ)対応を維持しながら、被写体の明るさに関わらず高速なオートフォーカスを同時に実現できる点です。明るいシーンでは2×2画素を別々に読み出してSNRではなく解像度を優先することもできます。

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ユーザーから選ばれるために。
そんな思いから誕生した
新ブランド「LYTIA™(ライティア)」

このように、さまざまな技術のハイブリッドによって、いっそうイメージセンサー分野をリードしていくSSS。今後も世の中に人々に感動体験を提供するために新しい取り組みを始めています。

「市場シェアは高く、スマートフォンメーカーには私たちの技術力を認めていただいていますが、一般の人たち(スマートフォンユーザー)においてはイメージセンサー自体を知らない方が多いと思います。その方たちにSSSがスマートフォンカメラの技術を支えていることを知っていただきたいし、SSSのイメージセンサーが入ったスマートフォンを選んで買ってもらえるように環境を変えていきたいという思いがあります」と鈴木は訴えます。

そこでブランディングを強化し、より一般社会に向けて認知度を高めていく取り組みを11月からスタートしました。これが、「もっと感動を自由に表現し、共有したい」というユーザーの思いに応え、期待以上のクリエイティブな体験をもたらすことをめざして作られたプロダクトブランド「LYTIA」です。

「2年以上前にブランドの立ち上げを検討し、ずっと議論を繰り返してきました。ようやく完成したのがLYTIAです。スマートフォンユーザーのクリエイティビティを解放する存在でありたいし、LYTIAが搭載されているスマートフォンはいい写真が撮れるという認知を向上させていきたいです」(鈴木)

見たままの景色を写真に残すことへのあくなき挑戦

今後のチャレンジについて、中田は「高画質を追求したい」と意気込みます。たとえば、子どもの運動会や発表会などでは、まだ一眼レフカメラやビデオカメラで撮影する人たちが多く、これはスマートフォンカメラの画質では不十分だということの表れです。また、昨今エンタテインメントをはじめさまざまな領域で活用が進んでいるVRの世界でも、引き伸ばされた映像の画質の粗さが目立つと中田は悔しがります。

「自分たちが開発したイメージセンサーが億を超える台数のスマートフォンに入っていて、さらに、それをユーザー各人が使って撮影するとなると、膨大な量の写真や動画が世の中に生み出されます。ユーザーが残す想い出、その画質に対する使命感や責任感は大きいです」(中田)

鈴木も続きます。

「心が動いた瞬間に、ユーザーは写真を撮りたいと思うわけです。では、私たちのイメージセンサーは本当にユーザーが見たままの景色を撮影できているのでしょうか。ここを突き詰めていきたいです」

人々の感動や喜びをありのままに記録に残すため、SSSのイメージセンサー開発に注ぐ情熱が止まることはありません。

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