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イメージセンサー

イメージセンサーのノイズ低減技術を確立。あくなき探求心で新しい撮像体験を

2023.01.11

スマートフォンでの撮影が当たり前になるにつれ、スマートフォンに搭載されるカメラの画素の微細化が進んでいます。解像度高く高精細な撮影ができるようになり、ますますスマートフォンによる撮影が重要なものになっています。実は、こうした撮影体験を実現するためにソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)の研究者たちが築き上げた技術が貢献しているのはご存じでしょうか。スマートフォンの画素の微細化は、製造工程でノイズ源が発生しやすくなる課題を抱えていました。それを大きく解消した人物が、2021年のSony Outstanding Engineer Award*1を受賞した三成英樹。白傷と呼ばれるノイズの発生原因を突き止め、ノイズを大幅に低減させる技術の基礎を確立させました。まだ誰も注目していない段階から、課題になることを予見し、技術を確立させた三成に、研究当時の苦労と研究者として大切にしていることを聞きました。

*1) エンジニアの新たな挑戦を加速させるために設立したソニーグループにおけるエンジニア個人に与えられる最も価値の高い賞

三成 英樹 (Hideki Minari)

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
イメージング&センシングデバイス開発部門

プロフィール:2011年ソニー株式会社入社。イメージセンサーのためのシミュレーション技術開発を担当。2012年よりベルギーに赴任し先端半導体デバイスの共同開発コンソーシアムに参加。2014年に帰任し、化合物半導体を光電変換層に用いたSWIR(Short-Wavelength Infrared)イメージセンサーの開発に携わるとともに、スマートフォン向けイメージセンサーの白傷解析・低減技術の開発を担当し現在に至る。

スマートフォンの高画質化によって生まれた新しい課題

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イメージセンサーの画質が劣化する原因はいくつかありますが、三成が解明したのは白傷と呼ばれるノイズの一種。たとえば夜景や暗い部屋の中で撮影した際、白い斑点のようなものが出てしまうことがあります。これが白傷と呼ばれるもので、画素の欠陥や金属汚染によって発生します。三成は半導体のシミュレーション技術を活用し、白傷ノイズを解析。白傷発生の原因となっている欠陥の発生メカニズムを特定。ノイズを大幅に低減する技術の基礎を確立させました。

「イメージセンサーの中で光を取り込む画素というパーツがありますが、この画素を構成するシリコンの原子が規則正しく整列していればノイズは発生しません。しかし、イメージセンサーは製造の過程で、削ったり、高温にさらされたり、膜を貼ったりします。こうした過程でシリコン結晶が傷ついてしまうと、レンズを通して取り入れた光から変換された電子とは別に、電子が漏れ出てしまうのです」と、三成は言います。こうして漏れ出た電子により、光が当たっていないはずの場所も光があると誤検出して白くなってしまうのです。

とはいえ、白傷がスマートフォン向けのイメージセンサーを開発する上で特に課題になったのはわりと最近のこと。「画素がある程度大きい時は、製造過程で傷がつくことはまれでしたが、画素の微細化によって製造工程でダメージを受けやすくなっていました」。この白傷が問題なのは、開発スケジュールに及ぼす影響の大きさです。イメージセンサーの開発は、非常に長い時間がかかります。設計上、問題ないと考えて開発を進め、試作品の完成までたどり着いた段階で白傷などの問題があるとわかった場合、対策を施してもう一度作り直す必要があります。最先端のイメージセンサーを遅滞なくお客さまのもとへ届けるためには、白傷をはじめとしたセンサー内の物理現象の理解が重要なのです。

協力者づくりから始まったプロジェクト
設計と製造過程の両方から地道に原因を洗い出す

学生時代、そして入社後の海外赴任時に先端ロジックデバイスのシミュレーション技術に関する研究を行ってきた三成。「先端ロジックデバイスでは、トランジスタを構成する材料の原子の並び方が重要になる。イメージセンサーでも白傷などのノイズ信号の起源を辿っていけば原子スケールの物理と結びつくはずだ」と考えました。しかし、この起源をたどるのは容易なことではありません。イメージセンサーの設計に問題があるのか、製造過程に問題があるのか、両方を考える必要があり、多くのエンジニアの協力と検証が必要でした。しかし、この研究のためにイメージセンサーの開発を行うことは不可能です。その時はまだ三成の仮説であり、イメージセンサー開発の現場において、白傷は徐々に増える傾向にはありましたが、大がかりな対策に舵を切るほどの決定的な証拠はありませんでした。

そこで三成が取ったのは、すでに進行している開発プロジェクトに協力を仰ぐことでした。開発中のセンサーの設計や製造過程、試作を見せてもらう代わりに、ノイズの原因と改善方法のアドバイスを提案。ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング 熊本テクノロジーセンターのメンバーにも協力してもらうことで多くの検証を行い、白傷発生のモデルを確立させていきました。その一方で、発生のメカニズムをある程度特定しても、低減させるためのアイデアを試す場はありませんでした。

そのためにもう一つ取り組んだのが仲間づくり作戦。まずは部門の技術者が集まる場で白傷発生の原因と改善のアイデアを説明しました。この説明の仕方にはとても気を使ったのだとか。「SSSにはさまざまなバックボーンを持つ技術者がいます。皆、技術に対してはとても積極的ですが、全員が理論をやってきたわけではありません。どこかの分野に偏った話し方をすると、理解しにくくなったり、興味を持ってもらえなかったりします」と、イラストや例え話を交えて、センサー内で起こっている物理現象のイメージを聞き手が想像しやすいように心がけました。「食品に使うラップは、左右に引っ張っても破れません。しかし、少しでも傷が入ると簡単に破れてしまいます。微細化された画素においても、製造過程において傷ついたり、不純物が混ざったりしてしまうと、欠損しやすくなる」というように説明して回りました。

すると、実験に協力してくれる仲間が増え、最初は聞き手だったエンジニアも自発的に実験や考察をはじめていき、最終的に大幅なノイズ低減技術の実現につながったのです。「SSSのエンジニアには探究心の強い人が本当に多いと感じます。まず、その探究心に火をつけることが、技術開発の質とスピードを高める近道なのだと感じました」(三成)。

SSS入社のきっかけは
「知りたい」から「役立てたい」への思いの変化

三成の研究心・探求心は、幼少期から目立っていました。中学校に入っても山の中に入って遊ぶような田舎で育ったせいか、高校に入って携帯電話に出会ったとき、すごいと感動するだけにとどまらず、「これはどうやって動いているのだろう」と考えたのです。知れば知るほどに、もっと知りたくなる。その尽きない探求心が、世の中の電子機器を動かす半導体に向くのは、ごく自然なことだったのかもしれません。

大学では研究室のプロジェクターで准教授と一緒にテニスゲームをやっていたという三成。こうしたのんきな一面を持つ一方で、デスクトップパソコンを複数台つないで計算機クラスターの構築なども行っていました。「研究室にはスパコンを買う予算はありません。かといって外部にシミュレーションを頼むと費用がかかります。同じ費用をかけるなら、自分でデスクトップパソコンをつなげてしまった方がコストパフォーマンスは高いんです。同じ予算でも3倍くらいの能力が出せる」といいます。教授自身がプログラムなどITに詳しかったことが影響して詳しくなったそうですが、ゲームの件といい、今回の研究開発時の仲間づくりにつながる、三成の人付き合いのうまさが垣間見えます。

また、独自に能力の高いコンピューター環境を構築したことは、研究成果にも大きく貢献しており、大規模なシミュレーションが可能となったことで、多くの国際会議や論文誌で成果を発表することにつながりました。そして、この研究成果こそが、SSS入社へつながっているのです。三成は大学院の博士課程までは大学教員をめざしていました。実際、いくつかの大学から誘いも受けていましたが、半導体デバイスに関する最大規模の学会で成果を発表した際、多くの企業に興味を持たれたことをきっかけに、自分の学んできた知識やスキルが産業界でも役立つのではないかという手応えを感じ、技術者になることを意識し始めました。「知りたい」という探求心に、知識を「役立てたい」という思いが加わったのです。

数ある企業の中からSSSを選んだきっかけは、博士号取得後にポストドクターとして研究していたところ、研究室の先輩だったSSSの社員の方から、ソニーの経験者採用を受けてみないかという誘いを受けたこと。面接を受けてみると、ソニー社員は明るい人が多く、雰囲気が良さそうな会社だと感じ、入社を決意したといいます。「技術の話をしているときに、とても興味を持って聞いてくれました。こういう人たちとなら明るく研究ができるのではないかと感じたのです。」

自分の仕事に関係ないことでも
ポジティブに「知る」という探求心を大事にする

入社後すぐにベルギーへ海外赴任した三成。SSSも参画している半導体の共同開発コンソーシアムの中で、先端ロジックデバイスの開発メンバーの一人として働き、同デバイスに関する最先端の知識と技術を獲得することがミッションでした。しかし、コンソーシアムは多くの企業が参加しており、研究テーマの大筋はあらかじめ決まっています。SSSが知りたいことだけを研究してくれるわけではありません。そこで三成は、コンソーシアムの研究と同じ方向で少しでもSSSとして欲しい情報が得られるような研究テーマを設定し、「この研究を行うことで、私たちコンソーシアムがめざすべき知見が得られるのではないか」と説得して回りました。

こうした巧みな交渉術を駆使しながらコンソーシアムで働いていた三成ですが、順風満帆というわけではありませんでした。コンソーシアムで携わっていた化合物半導体材料を用いたトランジスタ(ロジックデバイス)の開発では、シリコンほどきれいに結晶を整列させることができず、期待していたデバイス性能を実現することなく、帰国のタイミングを迎えてしまいました。こうして、成功体験だけでなく、苦い思いも抱きながら三成は帰国しました。しかしながら、この失敗経験で学んだ化合物半導体材料に関する知識は、しっかりと化合物半導体を用いたイメージセンサーの開発に役立てられています。

仕事をする上で大切にしていることは、「自分の中にある探究心に素直に従って、知らないこと、理解できないことに対して、ポジティブに向き合うこと」という三成。SSSの中では、イメージセンサーの白傷に関して多くの知識を持っていることもあり、スケジュールが埋まるほどの相談がくるといいます。「仕事をしていると、わからないことがたくさん出てきますし、自分の仕事でいっぱいいっぱいの時もあります。しかし、研究者として自分の探求心に素直になろう、自分の知らないことを知ることで、さらに深く物理を理解できるだろう、と考えるようにしています」と三成。子どもの頃の「知りたい」を今も持ちつづけ、知識を世の中に「役立てたい」という思いを変わらず大切にしていることがよく分かります。

いまも海外赴任時や大学の先生たちとのつながりがある三成は「SSSの外にもたくさん優秀な人がいます。こうした人たちと、これまで以上に密接に協力関係を築くことができれば、もっと世の中が良くなると思う」と、さらなる研究と環境づくりに意欲を燃やしています。今後のさらなる活躍も期待されています。