STORY

人材育成

上海勤務でお客さまやチームと築いた不断の信頼関係をつくる秘訣とは

2022.08.10

海外販社研修*1を活用し、1年間の上海勤務に就いた品質・環境部門の尾崎晋佑。赴任を決意したきっかけには、自分の部署の業務内容の変化がありました。お客さまの声を直接聞く重要性を強く感じた尾崎は、家族を説得し単身上海へ。そこでは厚木からは見えなかった現地での対応の煩雑さ、そして何よりもお客さまが要求するスピード感に強い衝撃を受けました。
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)の強い製品力を生かすためには手厚いサポート活動が不可欠と考えた尾崎は、中国のお客さまおよびチームといち早く信頼関係を築くべく活動を開始。その結果、お客さまからの対応依頼はスムーズになり、良好な関係を築くことにつながりました。日本とは文化も考え方も違う海外で、どのようにしてすばやく信頼を勝ち取ったのでしょうか。

*1) 「海外販社研修」とは、海外の顧客フロントでの業務を通じて経験の幅を広げ、海外の市場動向や技術活用実態の把握、現地での人的コネクションの獲得を目的としたSSS独自の人材育成の取り組み。

尾崎 晋佑

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社

プロフィール:2009年 ソニー株式会社(現:ソニーグループ株式会社)入社。半導体事業本部の品質信頼性部門に配属。その後、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社に出向しカメラ―モジュールの商品開発などを経て、現在の品質・環境部門でイメージセンサーの製品品質保証を担当している。

想像以上に大きかった、中国と日本の間の業務スピードのギャップ

品質・環境部門でモバイル用イメージセンサーの出荷前の最終品質チェックを行っていた尾崎。そんな中、「試作サンプルの評価」、「プロセスへのフィードバック」のサイクルを早め、お客さま不具合を試作時から改善し、製品化を進めていくという部の方針決定により、尾崎の部署で試作で起きた不具合の対応を行うことになりました。サンプルを提供しているお客さまは中国のスマートフォンメーカー。上海の現地チームで対応できない技術的な不具合が厚木にいる尾崎のもとに戻されるのですが、現地チームの話を聞いても「お客さまの真意が分からない」「本当にそうなのか」と疑問を抱えながら業務を行っていました。そんな折、1年間の海外赴任研修制度の存在を知り、「直接お客さまの声を聞いてみたい」「直接聞けば何かわかるのではないか」という思いで上海勤務を決めました。

赴任するにあたって、「家族のサポート」と「語学力」に不安がありましたが、思いのほか、家族はあっさりOK。もう一方の「言葉」に関しては、赴任前の半年間みっちり勉強したものの、街中ではさすがにわからないことも多々あり、赴任中も毎週中国語教室に通い、コミュニケーションの円滑化に努めました。
上海での主な業務は、お客さま側で発生した品質問題をすばやく解決し、SSS製品の品質維持と向上を図ること。上海チームとして、現地で対応できるものはなるべく現地で対応しつつ、技術的な問題は厚木や九州*2で対応してもらうように、問題のレベルに応じて振り分けていきました。赴任して最初に驚いたのは、スピード感の違いでした。旧正月の商戦など、中国では半年サイクルで製品開発を進めており、品質問題への対応も今日、明日の対応を求められていました。

*2) イメージセンサーの開発・量産拠点であるソニーセミコンダクタマニュファクチャリング。

現地のチームとお客さまのスキルアップが良好な関係構築の近道

そこでまず尾崎が取り組んだのは、上海チームのスキルアップ。週に一回、チームで勉強会を実施し、技術的に解決できる問題、できない問題を徹底的に教えました。「当時現地のメンバーの技術的な知識は十分とは言えない状況でした。お客さまからの要望をまずは厚木へ共有している状態でしたので、現地の彼らがしっかりと技術的な知識を持つことで、SSSとして、よりチームは強くなりますし、何よりもお客さま対応の質とスピードは格段に上がるはずだ」と考えたのです。この勉強会にチームのメンバーは意欲的に取り組み、自分でわかる問題は自分で対応するようになったことで、お客さまへの対応スピードは劇的に改善しました。現地のメンバーのためになることを積極的に行うことで、現地メンバーとの信頼関係を作り上げていったのです。
もう一つの取り組みとして、モバイル用イメージセンサーの開発側を代表し正直に「できないことはできない」とはっきり伝えることも心がけました。現地でお客さまから直接話を聞いているので、現地チームの気持ちは痛いほどわかる。その一方で、開発側の言い分もわかる。両方の気持ちがわかる立場にいる自分だからこそ、本当に必要なことをしっかり聞き分け「これだけはやらなければならない」と誠実に伝えることで、開発側を説得したのです。「誰よりもお客さまのことをわかっているという自負はありますし、だからこそ、開発側も私の話は聞いてくれました」と、上海と厚木の橋渡し的な役割を果たしていた尾崎。「ただ、お客さまからはあえて強く要望をいただくこともあります。慣れるまでは大変でしたが、お客さまが本当に何をもとめているのかを見極めることも私の大切な業務」だったと語ります。

海外赴任中にともに働いたメンバーとの写真(一番左:尾崎)

また、「SSSのセンサーに問題がなくても、お客さまがセンサーの使い方がわかっていないために、原因がセンサーにあると思って対応を求めてくる」ことも数多くあり、こうしたやり取りの多さがお互いのストレスになっていることに気付いた尾崎。そこで行ったのが3つ目の取り組みである、お客さまへの手厚い技術サポート活動。単にトラブル対応をするだけでなく、お客さまにセンサーの使い方などの基本的な知識を積極的に提供していきました。お客さまにセンサーに対する知識が備わることで、センサーに関係ない問題はお客さまサイドで解決できるようにサポートしていったのです。「SSSの製品自体は非常に高い評価をもらっていました。その一方でサポートが弱いともいわれていました。他社はサポートスタッフが現地に常駐しているようでしたが、私たちは常駐できていません。しかし、不必要な問い合わせの回数を減らし、少しでもすばやいお客さま対応を行い、本当に改善するべき点は、厚木と九州が全力でサポートする。そうした良い流れをつくれたことで、お客さまとの信頼関係も格段に向上したと感じています」と尾崎。「付け加えるならば、お客さまにとってセンサーの知識が学べることは、今後の業務効率の面でも有効。こうした相手の利益になるサービスを積極的に行ったことも、お客さまの信頼獲得につながりました。」さらなる信頼向上に必要なことを伺うと、「絶対的に良い製品をつくること」。「常駐スタッフなんていらない」とお客さまに思ってもらえるような製品づくりを進めていきたいとのことでした。

自分が変わっていくことが大事

厚木に戻ってからは、「お客さまが求める製品」という視点で物事を考えるようになったという尾崎。1年という赴任期間中、何度もお客さまの元に赴き、話を聞き、重大なトラブルにも直面したことで、現地の大変さ、そしてお客さまの求めているものを常に意識するようになりました。開発側の思いを受け止めつつも、「ここはちゃんと直してから戻そう」と厚木に戻ってもお客さまと開発側の橋渡し的なポジションはそのまま。さらにいまでは、厚木の部署のメンバーに上海での経験を共有し、現地メンバーとも密なコミュニケーションを取れる関係を築いたといいます。「絶対に不具合をお客さまに起こさせたくない」という思いのもと、上海のチームと厚木・九州を一つの強いチームにするべく、意欲的に取り組んでいます。
これから海外赴任にチャレンジする人へのアドバイスとして、「大切なのはコミュニケーション力」。「お客さまと日本側をつなぐ大事な仕事であるため、単純な伝達ではなくお客さまの意図をきちんと把握し、適切に伝える力が大切になります。また、同じく、開発側の意見をお客さまに適切に伝えることも大切」だといいます。さらに、「自分が変わっていくことが大事」であり、「現地の文化や、どういった考え方をしているのかをちゃんと理解することはとても大切です。日本の、自分の考え方ややり方を押し付けるのではなく、自分が現地のルールに合わせて、どうやればもっと良くなるかを考えるべき」だといいます。
「わからないなら、行ってみよう」というフットワークの軽さ。そして、「現地の人たちのためになることを積極的に行う」利他の精神。自分の考え方を押し付けることなく、「柔軟に自分を変えながら最善を探っていく」尾崎の姿勢に、これからの社会に欠かせないグローバルな人間関係の築き方のお手本を見たように思いました。