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人材育成

コロナ禍で新入社員の帰属意識を高めるには?逆境をチャンスに変えた研修プログラム

2022.07.27

コロナ禍の影響により企業文化の浸透や社員同士のネットワーク形成など、多くの企業で新入社員の育成が課題となっており、新しい研修の在り方が模索されています。そんな中、ソニーセミコンダクタソリューションズグループ(以降、SSSグループ)では、2020年度から独自の新入社員研修を実施。グループ合同の研修であるため、500人を超える大規模でありながら、研修プログラムはSSSグループ新人研修担当チームが企画から制作・運営に至るまで、すべて自前で行っています。研修後のアンケートでは、「自分も一社員としてSSSグループに属しているという実感が沸いた」「今後のキャリアを考える上で重要な研修となった」などの声が多く寄せられ、新入社員研修が知識の獲得のみならず、企業の成長に欠かせない社内のネットワーク形成や社員のモチベーションアップにも貢献しています。
なぜSSSグループは独自の新入社員研修を行う必要があったのか。そして、どのようにつくりあげていったのかをSSSグループ人事の木村、藤井、服部の3人に聞きました。

木村 一平

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
人事総務部門

2019年ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社入社。新人・若手社員、チューター向け研修の開発や社内のラーニングシステム導入を担当。

服部 夏央

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
人事総務部門

2020年にソニーLSIデザイン株式会社(現在はソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社へ統合)入社。入社1年目に新卒採用業務を担当。2年目以降は、新入社員研修、DE&I等の人材開発領域に携わる。

藤井 雄大

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
人事総務部門

2020年にソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)に新卒入社。入社初年度はSSSでHRBPと人材育成業務を担当し、2年目以降は新入社員研修業務を始めとした人材開発領域をメインに携わる。

自分たちで研修プログラムをつくりあげたからこそ、伝えたいことがしっかりと伝わるプログラムになった

SSSグループが独自の新入社員研修を導入したのは世の中がコロナ禍に突入した2020年度から。翌2021年度には、ソニーグループの経営機構改革により、SSSグループにはさらなる自立と一体化が必要となりました。そこで求められたのが、全社員にとって重要なバリューチェーンとミッション・ビジョン・バリュー(以降、MVV)のこれまで以上の浸透です。SSSグループの新入社員向けの新しい研修は、コロナ禍対応と経営機構変革という社内外の事情により、大きな責務、そして既成概念を払拭する変革に迫られました。
SSSグループ新入社員研修の主な目的は3つ。1つ目はSSSグループの強みである研究開発・設計から製造までを首尾一貫して手がけているバリューチェーンの理解。2つ目は企業がめざす方向性や大切にしたい価値観を示すMVVを浸透させること。そして3つ目は、社員同士のネットワークの形成です。これまでの研修では、SSSグループのバリューチェーンを体感してもらうため、各拠点の製造現場まで実際に足を運んでいましたが、コロナ禍で実施は不可能に。「製造現場で感じる『現場感』は、SSSグループのバリューチェーンを理解する上で非常に重要」と考えていた木村は、この『現場感』をオンラインでいかに補うかが大きな課題になったといいます。

新入社員研修プログラムのリーダーである木村

プログラムは4つのセッションで構成されており、1stセッションではMVVやバリューチェーンの概要を「知る」ためのインプットを行います。次の2ndセッションは、MVVやバリューチェーンを「理解する」ためのトップマネジメントの講話や若手社員のトークセッション。3rdセッションは学んだことを現場で「実践する」ためのグループワークを中心に展開。そしてFinalセッションではこれまでの学びを「振り返る」ため、グループワークにおける成果物を発表する場としています。

プログラムの企画にあたっては、「いくつかの外部の研修プログラムの話もうかがったのですが、こちらの要望に合致する500名の新入社員を対象とした提案はありませんでした。結果、『自分たちでやるしかない』という覚悟ができました」と話す服部。今回インタビューに答えた服部と藤井は入社3年目。つまり、コロナ禍の影響で急遽オンライン化となった2020年度の新入社員研修を受けた社員です。「正直、私が新入社員の時は、MVVを自分事としてとらえること、バリューチェーンを体感することが十分にできていなかったように思います。だからこそ『MVVはなぜ必要なのか』、『バリューチェーンとは何か』をしっかり理解した上で、腹落ちできるプログラムが必要」と考えました。2021年度のプログラムは彼らの受講者としての視点も取り入れることで、SSSグループオリジナルのプログラムが完成したのです。

新入社員研修プログラム担当の服部(写真:左)と藤井(写真:右)

オンラインでリアルの研修と同等以上の効果をめざす

「MVVを自分事としてとらえてもらうためには、トップマネジメントの講話のみならず、新入社員に近い立場である若手社員の話を聞くことも大切」と語る藤井。会社の方針を示す上でトップマネジメントの言葉は欠かせないものである一方で、SSSグループのように大きな企業の場合、「新入社員にとっては視点が高すぎて自分事としてとらえることが難しい」といいます。そこで2ndセッションに新たに取り入れたのが、新入社員により近い立場である若手社員によるエピソードトーク。いま活躍している若手社員が実際に経験した失敗や大変だったこと、その中で自分が成し遂げたことをストーリー仕立てで本人から話してもらうことで、新入社員のロールモデルとなることを狙いました。他にも研修全体を通して多くのディスカッションを取り入れ、知識を理解するだけでなく、どのように実践していくかを繰り返し考え、自分のアクションプランに落とし込めるように設計しました。
また、製造現場まで足を運んでいたコロナ前の研修に対し、急遽オンラインに切り替えた2020年度の研修では、バリューチェーンについて表面上の理解にとどまってしまい、全体の流れの体感までに至らないという課題が残ったといいます。その反省を活かし、2021年度では、3rdセッションにおいて「私たちの武器であるバリューチェーンを体感してもらうため、『リレーションマップ』を制作するプログラムを企画した」という藤井。SSSグループ内の「各部署がどの部署とつながっていて、どのような価値を生み出しているのか」を部署ごとにまとめ、最終的に全新入社員で1つの大きなマップ=『リレーションマップ』に落とし込みました。

プログラムでは、「自分たちが配属された部署がMVVを実現するためにどのような価値を提供しているのか」を所属部署の上長へインタビューし、オンラインのホワイトボード上で『リレーションマップ』へまとめました。マップ化することで、バリューチェーンを見える化し、概念としてではなく、自分の業務もそのバリューチェーンの一部であるということを実感できるといいます。現場に足を運ぶ『現場感』は体感できなくても、業務上繋がりのある部署とコミュニケーションを取り、リレーションを感じることで、『現場感』に代わる実感をつくりだしたのです。
オンライン化に伴う変革はリレーションマップ作りにとどまりません。SSSグループ内のより多くの同期と知り合い、仲を深めてもらいたいという思いから、バーチャル空間を用いたアイスブレイクのワークを行って偶発的な会話の機会を作ったり、意図的に多くのグループディスカッションを組み込み複数の長期的なタスクを与えたりする工夫をしました。コロナ禍によるつながりの希薄化が起こらないよう、新入社員同士のネットワーク形成にも気を配ったといいます。

社長と会社を身近な存在に感じさせるFinalセッション

本研修のクライマックスは、清水社長と新入社員とのインタラクティブなセッション。Finalセッションに向けて、新入社員には「SSSグループをより良くするアイディアをポスターにする」という課題が与えられました。研修の成果もあって、多くのアイディアはMVVのバリューズにある「一体感」「オープンネス」「チャレンジ」が多くのテーマに盛り込まれていました。制作されたポスターはSSSグループの全社員に公開し、コンペティションを開催。投票の結果、リアルで対面できない相手の情報不足を埋めるため、「Teams」のアイコンに自己紹介のスライドを設定するアイディアや、MVVを実践するための祝日を新たに設けるアイディアなどが選出されました。全社員投票で選ばれた4案は新入社員から社長へ直接プレゼンテーションを行いました。

最終セッションでは、提示されたアイディア一つひとつに対し、清水社長が感じたことを率直にコメントし、疑問に思ったことを新人に投げかける姿を見せることがすごく重要だと話す服部。「会社案内に出てくる遠い存在の社長ではなく、素直に驚いたり、困ったり、笑いながらコメントしてもらうことで、新入社員にとって社長が身近な存在になる」とのこと。新入社員500人超に向けた研修だからこそ、オンラインの強みを最大限に生かすことで、リアルだけでは難しい「社長を身近に感じさせる」ことに成功したのです。

研修終了後のアンケートでは「自分も一社員としてSSSグループに属しているという実感がわいた」「今後のキャリアを考える上で重要な研修となった」など、9割近くの新入社員が「満足」と回答しましたが、まだまだ課題も残ります。配信ネットワークの不具合の改善や各コンテンツの強化、そしてITをフル活用しつつも、どのようにリアルの場を増やしていくかなど、さらなる改善に向けて取り組んでいきます。

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